施設内にあえて坂や段差を設置。毎日の活動内容は利用者自らが決める。昼食もバイキング方式で、自ら選び、自ら片付ける。“至れり尽くせり”の既存施設とは一線を画す異色のデイサービス施設だが、利用者は毎日90人を超えるという人気ぶり。常識破りの施設はどうして生まれたのか。デイサービスセンター「夢のみずうみ村」代表の藤原茂氏(64)に聞いた。
「夢のみずうみ村」がほかのデイサービス施設と違うのは、「自己選択・自己決定」を原則とする点です。
毎朝、施設に到着した利用者は、その日やりたいことを約100種類のメニューから選びます。内容は「陶芸」「パン焼き」「温水プール」「筋トレ」「ルーレット」「麻雀」とさまざま。「何もしない」「ゴロ寝」もあります。その日の気分に合わせて3~4種類選び、夕方まで取り組んでもらいます。
昼食はバイキング方式です。テーブルに並んだおかずを自らの手でよそいます。利用者の多くは要介護1ないし2ですが、車椅子や半身に麻痺がある人も同じようにしてもらっています。サポートするのは簡単ですが、それでは本人が持つ能力を奪ってしまいます。大切なのは自主性です。
施設自体にも特徴があります。廊下にはわざと勾配をつけ、段差や階段もあえて多くしてあります。実社会で出くわす「バリアー」に対応してもらうためです。
一般のデイ施設は、利用者みんなが決められたことをやる「集団一斉方式」のところが多く、リハビリのメニューもスタッフが考え、利用者に実践させます。
私も以前、別の病院で働いていたころはそれが当然と思い、心肺機能を高める訓練などを考案してメニューに入れていました。
でもあるとき、患者さんから言われたんです。「あなたたち専門家はああせよ、こうせよと言うけど、こちらが何をしたいか、考えたことはある?」と。深く心に突き刺さり、自分本位だったと反省しました。
発想を逆転させ、患者さんの意思を尊重しようと思ったのですが、既存の病院ではスペースや人員に余裕がなく、個々の患者に好きなことをさせるのは難しかった。それならいっそ自分で施設を造ろうと、自宅を担保に3千万円の借金をして、「夢のみずうみ村」を開設しました。
反響は予想以上でした。現在の利用者数は1日90~100人で、登録者数も400人にまで増えました。多くの方に「来るのが楽しい」「メニューが豊富で、やりたいことを伸び伸びやれるのがいい」と言って頂けるのがうれしいですね。
龍谷大学の教授が利用者の改善状況について調査に来たこともあります。2004年9月から07年3月までの間で、改善した人42%、維持47%。悪化はわずかに11%でした。特に「要介護2」の利用者の改善率は50%で、全国平均の5倍でした。
利用者が自らの意思で動くことが、より機能回復につながるということが実証されてうれしかったですね。(略)
週刊朝日 2013年9月13日号