潜在希望者40万人。各自治体の計画作りがまもなく始まる
子どもが日中、安心して過ごせる場所をどう確保するか。共働きの家庭にとって、なにより大事な課題だろう。
保育所が増えることはもちろん必要だが、子育ては保育所時代だけでは終わらない。「小学校に入ったらどうなる……」。そんな不安を持つ保護者は少なくない。
そこで注目されているのが、子どもたちの放課後の生活を支える「学童保育」だ。2015年度から始まる予定の新しい子育て支援制度でも、学童保育の充実がうたわれた。
学童保育はどう変わっていくのだろうか。
DUAL世帯に立ちはだかる「小1の壁」
子どもが小さいうちはなんとか仕事と子育てを両立できていても、小学校に入った途端に行き詰まる。これが「小1の壁」だ。
放課後の子どもたちの遊びや生活の場となる学童保育は、保育所ほどは整備されていない。しかも、保育所であれば多少自宅から遠くても親が連れていけるが、学童保育は子どもが放課後、自分で向かうため、学校の近くにないと利用しにくい。
なのに職場の目は「もう小学生だから安心だね」などとなりがちだ。短時間勤務などの両立支援制度も保育所時代向けが中心だ。保育所時代とはまた違った両立の難しさがあり、仕事を続ける上で大きな壁になる。
学童保育は徐々に増えてきてはいる。厚生労働省のまとめによると、2013年時点で全国に約2万1千カ所があり、約89万人の子どもが登録している。10年前と比べると、クラブの数も人数も1.6倍に増えた。
入りたくても入れない待機児童の数は13年時点で約9千人。約2万3千人いる保育所の待機児童数よりは少ないが、親にとっては悩ましい現状だろう。最初から諦めて申し込まない家庭など、潜在的な学童保育の希望者は低学年だけで40万人を超えるともいわれる。
少しでも多くの子どもを受け入れるために、70人を超える大規模なクラブもあり、落ち着いて過ごせないという問題も生じている。
今まで存在しなかった「学童の基準」
子どもの健やかな育ちのためにも、女性の就労を後押しする意味でも、放課後を安心して過ごせる場所は必要だ。
追い風は吹いている。
15年度から、新しい子育て支援制度が始まる予定だ。名称は「子ども・子育て支援新制度」といい、様々な子育て関係の支援を、包括的にまとめようとしている。消費税の増税分から7000億円を投入し、子育て支援サービスの量を増やすとともに、質の向上を図ることを目指しており、学童保育もこの拡充対象の1つに位置付けられた。
これに伴い、初めて国の省令で基準が定められることになった。昨年12月に専門家による検討会の報告がまとまり、3月までに省令になる予定だ。基準の内容は、決して驚くようなものではない。クラブには原則2人以上の職員を置く、うち1人は研修を受けた有資格者とする、などだ。
だが、これまではこうした基準すらなかったことを考えると、大きな一歩だろう。施設の面積や全体の規模などについても数値が示され、これをもとに自治体が条例を定める。
とはいえ、まだまだ安心はできない。
各自治体のルール作りがまもなく始まる
新制度では、保育をはじめ様々な子育て支援サービスが拡充の対象になる。国も自治体も予算には限りがある。その中でどれだけ学童保育に振り向けられるかは、未知数だ。
学童保育は法律上に明記されたのが1997年と遅く、保育所などに比べると社会の認知度もまだ十分ではない。「学童を充実させたくても、なかなか予算がつかない」と嘆く自治体関係者もいる。
最近では、共働き家庭だけでなく、すべての子どもが放課後に参加できる事業を手掛ける自治体も多い。学童保育をこの事業と組み合わせて実施するケースも目立ってきた。
子どもたちが一緒に遊べるといったメリットはあるが、学童保育には生活の場としての役割がある。単に気が向けば遊びにいく、というところではなく、必ずそこに向かい、放課後の多くの時間を過ごす場だ。「ただいま」と思えるような環境が整っているか、おやつはあるか、職員の目はちゃんと届いているか。親としては気になるところだろう。
子育て支援サービスをどう充実させていくか、各自治体は15年度からの計画を立てることになっている。それに先立ち、昨年秋ごろから各地で子育て世帯へのアンケート調査が行われた。
具体的な計画づくりは春ごろから本格化する。この中で学童保育がどう位置付けられるのか、注意して見守っていく必要があるだろう。
そもそも、学童保育は、地域によりタイプが大きく異なる。自治体が学校や児童館に設けるケースが多いが、保護者の会などによるものもある。自分の地域はどうなっているのか、保育所時代のうちに早めに調べておきたい。
(文/日本経済新聞社編集委員 辻本浩子)
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=2049